公正証書遺言|自筆証書遺言との違いや効力について解説
相続が開始した際、各相続人が取得する財産は、遺言書や遺産分割協議の内容に従って決定されます。
しかし、遺言が法律に則った正しい方式で作成されていない場合や、遺言の内容が不明確で、その解釈に争いが生じた場合などには、遺言内容に沿った財産分配を実現することが不能もしくは困難となり、親族間のトラブルに発展する可能性があります。
また、法律に則った適切な方式で遺言を作成した場合であっても、遺言書を紛失してしまった場合には、当該遺言に基づいた財産分配は実現しません。
以上のような典型的なトラブルを避けるためには、「公正証書遺言」の方式にて遺言を作成することが望ましいと言えます。
このページでは、公正証書作成の手順、公正証書作成のメリット・デメリットについて解説していきます。
公正証書遺言とは
遺言の作成にあたっては、民法の規定する所定の方式に則る必要があるところ、民法は普通方式の遺言として、以下の3つを規定しています(特別方式による遺言としては4種類がありますが、このページでは説明を割愛させていただきます。)。
1.自筆証書遺言(民法968条)
遺言者が原則として自分で遺言の内容の全文、日付および氏名を書き、捺印したものです。
自署によらない財産目録を添付することもできますが、各ページに署名、捺印が必要です。法務局での保管を行ってもらう場合(後述※補足)を除き、相続開始後に家庭裁判所での検認手続が必要となります。
2.公正証書遺言(民法969条)
証人2人以上の立ち会いのもとで、遺言者の口述書を公証人に作成してもらい、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させ、それぞれの人が、署名、捺印して作成したものです。
3.秘密証書遺言(民法970条)
遺言書の内容を秘密に保管するために、封を施された遺言書の封筒の中に遺言書が入っていることを、証人2人以上の立ち会いのもとで公証人に証明してもらうものです。
主に遺言として現実的に使われることが多いのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
公正証書遺言は、自身で作成する自筆証書遺言と異なり、公証人によって作成され、保管される点に大きな特徴があります。
なお、公証人とは、公募の中から法務大臣が任命した準国家公務員であり、裁判官や検察官などを長く務めた法律実務の経験がある者から任命されるのが通常です。
公正証書遺言の作成手順
公正証書遺言作成の流れは、要旨以下の通りです。
①遺言に記したいことを遺言者がメモ書きにて作成
公正証書遺言の作成にあたっては、遺言に残したい事項を公証人に伝える必要があります。
そこで、まずは、相続人の名前、相続財産、財産分配の方法などを具体的に記したメモ書きなどを自分で作成しましょう。
②公正証書作成のための必要書類の準備
公正証書遺言を作成するにあたっては、原則として以下の書類が必要になります。日本公証人連合会のホームページにも説明がなされていますので、ご参照ください。
- 遺言者本人の印鑑登録証明書(3か月以内に発行)又は運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの顔写真付身分証明書
- 遺言で相続人に相続させる場合には、当該相続人と遺言者との続柄がわかる戸籍謄本(3か月以内発行)
- 財産を相続人以外に遺贈する場合には、その人の住民票等氏名・住所・生年月日のわかるもの
- 遺贈又は相続させる財産がわかるもの(不動産であれば登記簿謄本や固定資産評価証明書など)
- 証人となる予定の者(遺言執行者を決めている場合には当該人も同様)の住所・氏名・生年月日・職業がわかるもの
③公証役場の予約
公証役場は各地に設けられています。遺言者ご自身が出向くのに便利な場所にある公証役場を検索すればよく、当該公証役場に電話をします。公証人は当番制となっている場合が多いので、当該日の対応の公証人との間で公正証書遺言を作成したい旨、及び今後の予定や面談日時などを決めます。
④交渉人との面談
あらかじめ作成しておいたメモ書きなどをもとに、遺言に記載する事項について、公証人と面談を行います。
相談回数は各事例により異なりますが、1回の相談で終わるケースも多々あります。なお、遺言者が、公正証書遺言作成の手続を弁護士へ依頼した場合には、弁護士と公証人との間で遺言内容の事前調整が進められ、公証人との面談を遺言者ご本人が行わずに事前準備を進めることができます。
⑤公正証書遺言の作成
公証人との面談を終え、遺言内容が確定した場合、別日程にて公正証書の作成が行われます。
作成当日は、遺言者ご本人が事前準備をしていた公証役場に出向く必要があります(ただし、お身体が不自由な場合等、公証人が遺言者のもとへ出張して作成することも可能です。)。これは事前準備を遺言者に代わって弁護士が行っている場合も同様です。そして、上記必要書類のほか実印の持参を忘れないよう注意してください(詳細については、面談時に公証人から案内があります)。
また、作成当日は、遺言者・公証人の他、証人2名以上の参加も必要になりますので、証人の依頼は前もって行っておく必要があります。
遺言者・公証人・証人が揃ったら、公証人により事前に確定させた遺言の読み上げが行われます。
そして、読み上げられた遺言の内容に問題がなければ、遺言者・公証人・証人のそれぞれが遺言書に署名押印をし、公正証書遺言の完成です。原本は公証役場に保管されます。
公正証書遺言と自筆証書遺言の違い
・内容の正確性や有効性の担保があること
自筆証書遺言は、遺言としての形式的な要件が正確に満たされなければならないにもかかわらず遺言者が自身で作成するものですので、方式や内容の不備、さらには法的解釈が困難な文言が用いられているケースも多々あります。これでは遺言そのものが無効となるリスクもあります。
他方で、遺言公正証書は、豊富な法的知識を有する公証人の関与のもと作成されるものであり、かつ、作成に先立ち、公証人と遺言者との綿密な打ち合わせが行われますので、内容の正確性が担保されており、相続開始後、方式や内容の不備、遺言内容の解釈をめぐる紛争に発展する可能性が低いということができます。
・検認手続が不要であること
自筆証書遺言の場合、相続開始後に、家庭裁判所での「検認」という手続きを経ることが必要ですが(民法1004条)、公正証書遺言の場合には検認手続は不要です。
したがって、手間となる手続きを経ることなく、早期に遺言内容の実現が可能な点も公正証書遺言のメリットということができます。
・紛失改変の危険性がないこと
せっかく遺言を作成したとしても、相続開始後に、遺言書が発見されなければ、遺言者の生前の意思を実現することはできません。
自筆証書遺言の場合、原則として自身で遺言書を保管することになっていますので、遺言書紛失の可能性があることは否めません。
他方で、公正証書遺言は、遺言作成後、原本が公証役場にて保管されることになっていますので、遺言書の紛失や改変の危険性はありませんし、公証役場が公正証書遺言の情報をデータベースに登録するため、全国どの公証役場でも相続人らが公正証書遺言の有無を検索することができます。検索の結果、公正証書遺言があることが分かった場合は、原本が保管されている公証役場にて公正証書遺言の謄本を取得することができます。原本が保管されている公証役場が遠隔地の場合は、郵送でも謄本を取得することが可能です。
・その他の違い
公正証書遺言であれば、重病等で文字が書けない方でも遺言が作成できることや、自宅や病院へ公証人に出張してもらって遺言を作成することも可能というメリットもあります。
他方で、遺言作成に伴い若干の作成費用が生じることになりますので、作成手数料がどの程度になるのかという確認は事前に行う必要があります。
※補足
2020年7月10日より、法務局にて自筆証書遺言の保管を行なってもらえる制度がスタートしました。
この制度を利用した場合、遺言書紛失の危険性もなく、また、遺言者の死後に検認を経る必要もなくなりますので、公正証書遺言に似たメリットの一部を受けることができます。
もっとも、この制度を利用した場合、遺言書の形式面に関するチェックを受けることはできますが、内容に関するアドバイスを受けることはできませんし、出張により保管を行ってもらうということもできません。
より正確な内容の遺言書を作成し、相続開始後のトラブルを回避したいと考えていらっしゃる方は、公正証書遺言を作成するのがより望ましいと言えます。
相続に関することはYz法律事務所にお任せください!
公正証書遺言作成にあたっては、多少の手間やコストはかかるものの、相続開始後の紛争を防止し、遺言者の生前の希望を実現させられる可能性が高いことに鑑みると、公正証書遺言の作成は非常に有意義です。
Yz法律事務所では、多数の経験を踏まえ公正証書遺言作成に関する相談やお手伝いも承っておりますので、ご気軽にご相談いただければと存じます。
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