連絡が取れない相続人がいる場合の相続手続きの進め方
相続人が多数存在する場合、相続人との音信不通等が原因で、相続に関する協議を行うことができないケースは実務上よく存在します。
もっとも、一部の相続人と連絡が取れない場合であっても、遺言書において、すべての遺産についての相続の方法が指定されている場合、当該遺言に基づいて相続手続きを進めることが可能です。
他方で、遺言において相続の方法が指定されていない場合、全ての相続人間で遺産分割協議を行い、遺産相続の方法を決める必要があるところ、法定相続人の一部でも欠いてなされた遺産分割協議は無効となってしまいます。
以下、相続人の一部と連絡が取ることができず、かつ、遺言書も存在しないケースにおいて、どのように遺産相続を進めていくべきかについて解説していきます。
遺産分割を行わないまま放置した場合
遺産分割協議を行おうにも、一部の相続人と連絡を取ることができない場合、遺産分割自体を諦め、相続財産を放置してしまうという事態も想定することができます。
しかし、遺産分割を行わず、財産を放置すると以下のような不利益が発生する可能性があります。
①預金債権の時効消滅
口座名義人が死亡し、遺産分割を行わないまま口座を放置し5年が経過した場合、預金債権が時効により消滅し、預金の支払いを受けることができなくなる可能性があります。
もっとも、現在の実務においては、5年が経過した場合であっても、適切な手続きを踏めば、金融機関も支払いに応じています。
しかし、支払いに応じるか否かは、各金融機関の判断に委ねられており、今後も確実に支払いを受けられるとは限りません。
②預金の無断利用による紛争のリスク
相続人が、預金口座名義人が死亡したという事実を金融機関に報告した場合、金融機関は当該預金口座を凍結するため、以降、相続人が被相続人名義の預金口座から払戻することはできなくなりますが、金融機関に預金口座名義人死亡の事実を報告しなければ金融機関が被相続人の死亡を確知することはありませんので、預金通帳やキャッシュカードを管理している一部の相続人が、被相続人名義の預金を自由に引き出すことができてしまいます。
そのため、相続人全員で遺産分割をしないまま、一部の相続人が被相続人名義口座の預金を勝手に引き出して費消するケースがよくあります。しかしながら、被相続人名義の預金は相続財産ですので、遺言書で特定の相続人が当該預金を取得しているわけではなく、特定の相続人が他の相続人に無断で預金を引き出した場合には不当利得となりますので、被相続人名義の預金を費消していない相続人が、無断で費消した者に対し、当該預金の利用分を不当利得として返還するよう求める紛争が発生するリスクがあります。
これを避けるためには、速やかに預金を含めた相続財産について、遺産分割協議を行っていただくのが望ましいと思います。
③不動産の利用に制限がかかる
相続が開始すると、遺産分割などによって相続分が決定されるまでの間、相続財産たる不動産は各相続人の「共有」状態となります。
不動産が共有状態にある場合、当該不動産の売却や解体、建替え等を行うためには、共有者全員の同意が必要です。
したがって、一部の相続人と連絡が取れないまま、相続財産たる不動産を放置し続けると、不動産の共有状態を解消することができず、不動産を活用することができません。
相続人と連絡が取れない場合における手続きの進め方
以上のようなデメリットを回避するためには、①相続人の住所の調査や②失踪宣告の申立て、③不在者財産管理人の選任の申立てを行うことが考えられます。
以下、それぞれについて解説します。
①相続人の住所の調査
電話や手紙等で連絡が取れない場合であっても、まずは、相続人の現在の居場所を特定することが重要です。
相続人の本籍地が判明している場合、本籍地を管轄する役所に当該相続人の「戸籍附票」を申請して取得すれば、住民票上の住所地が記載されています。
以上の手続きにより、相続人の住所地が判明したら、まずはその住所地に手紙を送付し、連絡を試みましょう。
②失踪宣告の申立て
連絡が取れない相続人が生死不明の状況が7年以上経過しているなら「失踪宣告」ができます。
失踪宣告がなされることにより、当該相続人は法的に死亡したものとみなされるため、当該相続人を含めずに遺産分割協議をすることが可能です。
もっとも、失踪宣告を受けた者に相続人がいる場合、「代襲相続」が発生する可能性がありますので、この場合は、失踪宣告を受けた者の相続人を遺産分割協議に参加させる必要があります。
③不在者財産管理人の申立て
不在者財産管理人とは、財産管理人を置かずに行方不明になっている場合において、本人の代わりに財産管理をする人を選任する手続きです。
例えば、上記②の失踪宣告の申立ての要件は充足しないものの、連絡が付かず、所在不明の相続人がいる場合であれば、共同相続人であれば、利害関係人として、当該所在不明の相続人について不在者管理人の申立てを行うことができますので、裁判所により選任された不在者財産管理人を遺産分割協議に参加させることで、有効な遺産分割協議をすることができるようになります。
一切連絡したことがない相続人がいる場合や相続人が遠隔地に居住している場合
これまでにご説明したケースとは異なり、相続人の中にこれまで一切連絡を取ったことがない者がいる場合や、相続人が遠隔地に居住しており連絡が取りづらい場合もよくあります。
このようなケースでは、相続人が全員一堂に会して遺産分割協議をするということ自体が困難ですし、最終的に1通の遺産分割協議書を作成する際も、持ち回りや、郵送でのやり取りをする必要があるなど、時間と労力を要することとなります。
そのため、こういったケースでは、ある相続人が別の相続人が有する相続分を譲り受けることで、相続分の譲渡をした相続人を遺産分割協議書の当事者から外すことができます。相続分を譲渡する相続人としても、自らの相続分を相当な価格で買い取ってもらえば、遺産分割協議をした場合と同等の結果を得ることができます。
上記の「相続分の譲渡」をうまく活用すれば、相続手続を円滑に、また、自身に有利に進めることもできます。
相続に関することはYz法律事務所におまかせください
相続が開始した場合において、連絡が取れない相続人が存在するケースであっても、適切な手段を講じることにより、遺産分割を含めた相続手続を進めていくことが可能です。
Yz法律事務所では、遺産分割を含めた相続問題に関する案件を多数ご依頼いただいておりますので、お気軽にご相談いただければと存じます。
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