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被相続人が積み立てた小規模企業共済契約の共済金は、遺産として遺産分割や遺言の対象となるのか?

 相続が発生すると、どの財産が遺産なのか把握することが重要であり、かつ、その確認作業が大変であることが多々あります。そもそもどのような財産があるのか、ということはもちろん把握した財産が本当に「遺産」となるのか、という点は意外と難しい場合があります。例えば典型的には、被相続人の死亡生命保険金の取り扱いがどうなるのか、という点がありますが、今回は、小規模企業共済契約による共済金の支払請求権について要点を解説します。

 

[] 小規模企業共済契約による共済金

 小規模企業共済制度は、小規模企業の個人事業主や小規模の会社等の役員が事業を廃止したり退職した場合等に、生活の安定や事業の再建等を図るために、小規模企業者の相互扶助の精神に基づき、自ら資金を拠出して行われる任意の共済制度であり、加入資格を有する小規模企業者が独立行政法人中小企業基盤整備機構との間に共済契約を締結し、契約期間中に共済掛金を払い込み、将来事業を廃止する等の事由が発生した場合に、法令で定められた共済金等を受け取るという制度です(小規模企業共済法1条参照)。掛金が全額所得控除できるなどの税制メリットに加え、事業資金の借入れもできるなど昨今では加入事業者も増えており、共済制度の在籍者数は令和3年には、約160万人に及んでいます。

 

[] 共済金の請求権は遺産か

 共済金については、被相続人が積み立てたものであり、一見すると被相続人の財産であり遺産のように思えます。仮にこれが遺産ということであれば、遺産分割や遺言の対象となりますし、逆にそうでなければこれらの対象にならないということになります。

 この点、小規模企業共済法においては、共済契約者に事業の廃止等の事由が生じた場合には、その者(事業の廃止等の事由が個人事業者の死亡によるものであるときは,その遺族)に共済金が支給されるところ(同法9条1項)、共済金の支給を受けるべき遺族の範囲及び順序について、同法10条1項にて、以下のとおり詳細に定められています。

 

 一 配偶者(届出をしていないが、共済契約者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあつたものを含む。)

 二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で共済契約者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していたもの

 三 前号に掲げる者のほか、共済契約者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していた親族

 四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの

 五 孫の子及び兄弟姉妹の子のうち第三号に該当しないもの

 

 したがって、共済金請求権は、民法の一般原則により相続人が承継するというものではなく、法により直接に請求権が遺族に生じるものとされています(東京地判平成23年10月17日参照)。つまり、共済金請求権は、被相続人の遺産ではなく、法律に定められる遺族固有の権利ということになり、結果として遺産分割や遺言の対象ではないということになります(共済金は相続の対象になりませんが、みなし相続財産として相続税の申告が必要です。)

 そして、共済金の支給を受けるべき遺族に同順位者が2人以上あるときは、共済金は、その人数によって等分して支給されることとなりますから、法定相続分とは区別すべき点に留意を要します(同法10条3項)。

 

[] 共済金の請求手続き

 共済金の請求手続きは、小規模企業共済法施行規則第10条に詳細が定められていますが、その中で、「受給権者が二人以上あるときは、共済金の請求は、共済金の受領に関し一切の権限を有する代理人一人を定め、その者によりしなければならない。」と規定されています(同条5項)。

 しかし、兄弟間で相続をめぐってトラブルになるケースもあり、その場合には一切の権限を有する代理人1人を決定して滞りなく共済金の請求を受けることが困難と言わざるを得ません。

 この点について、前掲東京地判は、「複数の受給権者の間で、代理人を定める協議が調わず、これを定めることが困難な事態もあり得るのであって、そのような場合にまで代理人を定めない限り共済金の支給手続を行わないとするのでは、複数の受給権者に困難を強いる一方、共済金の支給手続も円滑に行われないことになり、共済制度による小規模企業者の振興という法の趣旨にも反することになる」などの理由により、同訴訟においては、代理人一人を定めて共済金を請求することまでは要しないと判示しました。

 もちろん実際には、個別具体的な事情により異なる解釈もあり得ますが、実務的に参考となります。

 

[] 最後に

 相続にかかる紛争を未然に防ぐため、親が子らに対する遺言を作成するということが一般的に多くあろうかと思います。しかし、小規模企業共済金の取り扱いについて、深く考えずに遺言に記載をし、安心していても結局は相続人間の紛争が生じ、被相続人の意向に沿わない結果となるおそれがあります。

 小規模企業共済金については、上記のような法的整理であることを踏まえながら、実際に誰に受給権が生じるのか、また、仮にそれが望ましいものではない場合には、契約に基づく共済金の各支給要件を確認し、亡くなる前に事業を廃止するなど、事前に支払いを受けておくということが必要となってきます。

 

 今回は、小規模企業共済契約による共済金の支払請求権が遺産に当たるのかという点を解説しました。共済金は積立金額も少額でないケースがありますから、事前に準備をしてトラブルを防ぐということが肝要となり、相続や遺言についてお悩みの方は専門家に相談することをおすすめします。

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